AI利用企業の73%が「役割・責任への影響」を報告——米小規模事業者750人調査から考える
AIを利用する米小規模事業者の54%が「作業が速くなった」と答える一方、73%が「役割・責任への影響があった」と回答しています。この調査が実際に測っているものを手がかりに、導入時に確認すべき変化を考えます。
米国商工会議所財団(U.S. Chamber of Commerce Foundation)がIpsosに委託した調査では、AIを利用する小規模事業者のオーナー・運営者の54%が、従業員の作業完了時間にAIが「主に良い影響」を与えたと答えました。
難しい仕事へ取り組む能力では50%、成果物の質では47%が「主に良い影響」を報告しています。
「主に悪い影響」は各項目で3〜4%でした。
ただし、これは実際の処理時間や品質を直接測定した結果ではなく、雇用主側の認識を尋ねた自己申告調査です。
また、残りの回答は「影響が混在する」「まったく影響なし」という選択肢であり、3〜4%以外がすべて肯定的だったわけではありません。
同じ調査では、AIを利用する事業者の73%が従業員の役割・責任に、73%が顧客の期待・行動に、70%が従業員の仕事ぶりに対する期待に、65%が採用・人事判断に何らかの影響があったと答えています。
これらの数字は、正式な組織改編や人事評価制度の変更が行われたことを直接示すものではありません。
それでも、AIの影響が作業時間や成果物の質だけにとどまらず、役割や組織運用にも及んでいると経営者側が認識している点は、導入を考えるうえで見過ごせません。
本稿では、この調査が示していることと示していないことを分けたうえで、AI導入時から確認しておきたい組織側の変化を整理します。
なお、この調査でいうsmall businessは、従業員500人以下で個人事業主を除く米国の事業者です。
日本の法令上の中小企業区分とは一致しないため、調査結果の割合を日本企業へそのまま当てはめるものではありません。
調査が測ったもの、測っていないもの
米国商工会議所財団がIpsosに委託し、従業員500名以下(個人事業主を除く)の小規模事業のオーナー・運営者750名を対象に、2026年5月19日から6月4日にかけて実施したものです(2026年7月14日公表)。
回答者全体に対するcredibility intervalは±4.4ポイントとされています。
ここで確認しておきたいのは、この調査が測っているのは実際の生産性や制度変更ではなく、雇用主・オーナー側から見た「影響があったかどうか」の認識だという点です。
従業員本人や顧客への調査ではなく、生産性や品質を客観的に測定した結果でもありません。
AIがそれらの変化を引き起こしたという因果関係を証明するものでもない点にも注意が必要です。
雇用主側では、時間・品質への前向きな評価が多い
AIを利用している事業者に絞ると、54%が作業の完了時間に、50%がより難しい仕事に取り組む能力に、47%が仕事の質に、それぞれ「主に良い影響」があったと回答しています。
逆に「主に悪い影響」と答えたのは、いずれの項目でも3〜4%にとどまりました。
残りの回答は「影響が混在する」「まったく影響なし」という選択肢のため、3〜4%以外がすべて好意的だったと読むことはできません。
それでも、少なくとも雇用主側の自己評価では、否定的な評価よりも肯定的な評価の方が多く報告されたと言えます。
雇用主から見た、余力の使われ方
同じ調査は、AIが作業時間または成果物の質に「主に良い影響」を与えたと回答した事業者に絞って、得られた余力を従業員が何に使っているように見えるかも尋ねています。
全回答者ではなく、この条件を満たした事業者だけが対象である点がまず重要です。
65%が「以前より多く、あるいはより質の高い成果物を出すことに使われているように見える」と回答し、56%が「学習・計画・既存業務の見直し」、38%が「より難しい仕事や新しい責任を担うこと」、36%が「残業や追加労働を避けること」、30%が「休憩や私的な用途」を挙げています(複数回答形式のため合計は100%を超えます)。
つまり雇用主は、成果物の増加や難しい業務への挑戦といった会社に向かう使い道と、残業削減や休憩といった従業員に向かう使い道の両方を報告しています。
AIの効果が働き手によって一様ではないことを示す、別の研究があります。
コールセンター業務を対象にした研究では、生成AIによる助言ツールの利用で、対応1時間あたりの解決件数が平均15%増えました。
経験の浅い担当者・スキルの低い担当者ほど効果は大きく、約30%の増加が報告されています。
一方、経験が長い層・スキルが高い層では効果はごく小さく、最もスキルが高い担当者では一部の品質指標がわずかに低下したと報告されています(Brynjolfsson, Li, Raymond「Generative AI at Work」Quarterly Journal of Economics 140(2), 2025)。
5,172人を対象とした主要分析は、AI支援の段階導入を利用した準実験(差の差法)によるもので、全員を無作為に割り付けたRCTではありません。
同論文には、これに先立つ約50人規模のパイロットの報告も含まれています。
うち約半数が処置群に無作為に割り付けられましたが、著者らはパイロットの統制群に関する情報を得られなかったと述べています。
この研究は単一企業のカスタマーサポート業務(委託先を含む)を対象にしたものであり、米国商工会議所財団の調査結果を直接説明するものでも、経験層ごとにどのKPIを置くべきかを示すものでもありません。
ただし、AIの効果を全従業員に一律に想定せず、経験や担当業務ごとに実際の変化を測る必要がある、という検討材料にはなります。
作業時間だけでなく、役割・期待・人事判断にも影響している
もう一つ調査が報告しているのが、役割・期待・顧客対応・人事判断への影響です。
AIを利用する事業者の73%は、AIが従業員の役割・責任に何らかの影響を与えたと回答しています。
同じく73%が顧客の期待・行動への影響を、70%が従業員の仕事ぶりに対する期待への影響を、65%が採用・人事判断への影響を報告しています。
これらはいずれも、大きな影響と小さな影響を合わせた雇用主側の自己申告であり、影響の方向や、正式な社内制度が変更されたかまでは示していません。
顧客の期待についても、顧客本人への調査ではなく、事業者側から見た認識である点は注意が必要です。
それでも、AIの影響を作業時間や成果物の質だけで捉えると、役割分担、従業員への期待、顧客対応、人事判断に生じている変化を見落とす可能性があります。
モデルやシステムの性能は、導入成果を左右する重要な条件です。
ただし、この調査が示唆しているのは、技術面の評価だけでは確認しきれない変化もあるということです。
AIがどの業務を担うかが変われば、人の役割、成果への期待、顧客対応、人事判断も連動して見直す必要が生じる場合があります。
役割、従業員への期待、採用・人事判断は、互いに独立した項目ではありません。
AIによって担当業務が変わった場合、従来の評価指標や採用要件とのずれが生じていないかを、併せて確認する必要があります。
米国の調査結果を、日本企業へ同じ割合で当てはめることはできません。
ただし、AI導入時に、作業時間だけでなく役割、従業員への期待、顧客対応、人事判断も確認するという観点は、日本企業が自社の状況を点検する際の参考になります。
AI活用の広がり方と、正式な責任は別
調査では、日常的なAI利用がどこから広がったかも尋ねています。
29%は経営者・経営層からのガイダンスやツール提供、期待の提示によって主に広がったと回答しました。
26%は経営側と従業員側が同程度、19%は従業員による自主的な試行が中心だったと答えています。
ただし、この設問が示しているのは利用拡大の起点であって、最終的な決裁権や責任の所在ではありません。
現場からAI活用が始まった場合でも、どのデータを入力してよいか、どの用途を正式運用とするか、顧客や従業員への影響を誰が確認するかは、別途決める必要があります。
反対に、経営側から導入した場合でも、現場で実際に負担が減ったか、見落とされた要件がないかを確認する経路が必要です。
専任のAI・人事・業務設計の担当を置きにくい企業では、こうした見直しを日常業務と兼務して進める必要があります。
ただし、企業規模だけで運用能力が決まるわけではありません。
本稿で重要なのは、規模そのものより、役割や評価を継続して見直す担当と時間が確保されているかどうかです。
導入前に仮説を置き、導入後に測りたい5項目
ここまでの数字を、自社の状況に置き換えて検討するための出発点として整理します。
以下はあくまで一例であり、そのまま自社の基準として採用するものではありません。
実際の重み付けや優先順位は、業種や現状の体制によって変わります。
- 役割・責任:どの作業をAIが支援し、どの判断を人に残すか。実際の運用後に、担当範囲が想定外に変わっていないかを確認する
- 得られた余力の配分:時間短縮が、成果量・品質・学習・新しい責任・残業削減・休息のどこに使われているか。一つの使い道を全員へ強制していないかを確認する
- 従業員への期待と評価:AI導入後に期待する処理量や品質が変わったか。既存の評価指標が、AIを利用できる業務と利用しにくい業務の差を無視していないかを点検する
- 顧客対応と人事判断:対応速度への期待、採用要件、配置判断に変化が生じているか。実際の顧客・従業員データでも確認できるかを見る
- 利用拡大の起点と責任:AI活用は経営側・現場側のどちらから始まったか。起点とは別に、正式運用の承認者・データ管理者・見直し責任者が決まっているかを確認する
これらはいずれも、AI導入を検討し始めた時点でこそ議論しやすいものです。
すべてを最初から完全に決め切る必要はありません。
導入前に仮説を置き、導入後の実際のデータと現場の声をもとに見直す仕組みを持つことが、次の一歩になります。
まとめ
米国商工会議所財団の調査では、AIを利用する小規模事業者の経営者・運営者から、作業時間や成果物の質への前向きな評価が多く報告されました。
同時に、役割・責任、従業員の仕事ぶりへの期待、顧客の期待・行動、採用・人事判断にも、何らかの影響があったという回答が多数を占めています。
ただし、この調査は雇用主側の自己申告であり、実際の生産性や制度変更を直接測定したものではありません。
また、AIがそれらの変化を引き起こした因果関係まで証明するものでもありません。
それでも、AI導入を作業効率だけで評価すると、組織側で生じている変化を見落とす可能性があります。
導入時には、どのモデルや製品を使うかに加えて、役割分担、得られた余力の使い方、従業員への期待と評価、顧客対応、人事判断、正式な運用責任を確認する必要があります。
導入前に仮説を置き、導入後の実際のデータと現場の声をもとに見直す仕組みを持つことが、AIによる効率化を組織へ定着させるための出発点になります。
現場の混乱や評価上のずれを早めに発見するための出発点にもなるはずです。
情報確認について
本記事は2026年8月時点で確認した内容にもとづきます。
主な参照元は、米国商工会議所財団が2026年7月14日に公表した記事「Small Business Owners Say AI Is Already Changing Work」および、Ipsos と共同で作成された付属の調査質問票「Appendix: Survey Questionnaire」です。
調査は2026年5月19日から6月4日にかけて、米国の小規模事業のオーナー・運営者750人を対象に、オンライン・英語で実施されました。
調査上のsmall businessは従業員500人以下で、個人事業主は除外されています。
全回答者に対するcredibility intervalは±4.4ポイントとされています。
ただし、本記事で扱う54%、50%、47%、73%、70%、65%などの多くは、AIを利用する事業者に対象を絞った設問であり、部分集団ごとの区間は公開資料では示されていません。
従業員が余力を何に使っているかという設問は、AIが作業完了時間または成果物の質に「主に良い影響」を与えたと回答した事業者だけを対象としています。
調査結果は、経営者・運営者側の自己申告による認識を示すものであり、従業員や顧客への直接調査、客観的な生産性測定、AI導入による因果効果の推定ではありません。
Brynjolfsson、Li、Raymondによる「Generative AI at Work」は、単一企業のカスタマーサポート業務(委託先を含む)を対象とした研究です。
5,172人を対象とした主要分析は段階導入を利用した準実験によるもので、全員を無作為に割り付けたRCTではありません。
同論文には約50人規模のパイロットの報告も含まれますが、著者らは統制群に関する情報を得られなかったと述べています。
同研究を他の職種や企業へそのまま一般化することはできません。
本稿における、役割・余力の配分・評価・顧客と人事への影響・運用責任を導入時から確認するという整理はMIFによるものです。